ドイツの医療現場から

ドイツ在住の医師として、欧州や日本の今置かれている状況を、日本の皆さんにわかりやすく情報をお伝えすることを目的としています。遠く離れていても自分にできることを。

ロックダウン(都市封鎖)が起こるとどうなる?ドイツ首都ベルリンの状況から


新型コロナウイルス(COVID-19)の感染者が急増する兆しが出てきたことを受け、東京がロックダウン(都市封鎖)されるかもしれないという噂が徐々に真実味を帯びてきています。

しかし多くの人にとってロックダウンとか英語で言われても、何が起こるのか具体的によくわからない。東京にいたらやばいと漠然と恐怖を感じてしまっている方々も多いと思います。

私の住むドイツは、3月16日よりオーストリア、フランス、スイスなどの隣接する国に対する国境封鎖措置がとられ、首都ベルリンも3月22日よりいわゆる"ロックダウン"の状態になりました。

 

 

*ロックダウンとは?具体的にどんな制限があるの?(ベルリンの例)

具体的に何が起こっているかというと、

  • 公共の場は2名以下でしか出歩いてはならない
    (基本的に1人。ただし、家族以外の1名、または家族の同伴のみ認められる)
  • 全ての飲食店は閉鎖
  • 同居の家族以外との接触は可能な限り避ける
  • 他人との距離は最低でも1.5m、可能なら2mあける
  • イベントやグループによるパーティーは自宅・屋外に限らず禁止
  • 酒場やクラブ、スポーツジム、美術館・コンサートホール、映画館、アウトレット、レジャー施設、売春宿、美容院やマッサージ、子供の遊び場は営業禁止
  • 保育園・幼稚園・学校はベルリンでは3月17日から既に休校
    南部ドイツの方ではその1週間前から休校
つまり、他人との接触は可能な限り避け、公共の場を思うように出歩くことができなくなるということ。そしてライフラインや生活に支障のない商業店は全て閉まるということです。

 今の日本の「外出自粛」のような"要請"ではなく、ロックダウンとなった場合は、警察により監視され、違反すると具体的な"罰則"があるわけです。通勤で仕事の同僚と2人で会話しながら歩いているだけでも、パトカーで巡回する警察と目が合ったり、人々からの視線をチクチクと感じます。(罰則の内容に関しては、公には書かれていませんが、友人たちの間では、罰金250ユーロ[約3万円]などという噂が流れています。)

また渡航に関しては、3月17日からEU国民、シェンゲン協定国民とその家族、また長期滞在許可を持つ外国人居住者以外の者に対し、正当な理由のない場合入国の制限がかかるようになりました。国間の移動は仕事や人道支援等のやむ終えない事情がないとできなくなりました。

イベントや生活制限がかかって1ヶ月、渡航規制がかかって2週間、ロックダウンが開始されて1週間。普段若者でごった返しているベルリンの街も、綺麗さっぱり空っぽになっています。普段通勤ラッシュの時間帯も、電車にはまばらに人が座っているような状態です。

 

*ロックダウンでもできることは?何なら許されているの?

例えば、

  • カフェやレストランは閉まっていても、テイクアウトや宅配は可
  • スーパーや生活用品を扱う店は開いている
  • 職場への通勤、生活必需品の買い物、通院
  • 託児・高齢者介護などのケアやリハビリ
  • 高齢で動けない人などのための他者へのサポート等
  • 個人でのスポーツ、屋外の新鮮な空気を吸うための運動

ですので、朝早くランニングをしている人や、スーパーの周りにはちらほらと人を見かけます。ただスーパーの入り口やレジでは、皆1.5m以上の間隔をあけて並んでいます。

ちなみにスーパーの店頭に並ぶ品々などは、一時のパニックで棚が空になることはありますが、人々の動きを抑えるだけで、物流を抑えるわけではないので、必ず(遅くとも数日のうちに)補充されます。備蓄品の買い込みは必要最低限にしましょう。

 

*ロックダウンは効果があるの?

ドイツでは、まだ感染者が1000人程度だった3月10日前後には、渡航制限(特にイタリアなどのリスク地域)及びイベントの自粛要請が出されていました。
(今の日本と似たような状況ですね)

そしてこの頃から地域によっては幼稚園・学校の休校も始まりました。しかし、その後またたく間に感染が広がり、3月上旬ではドイツ全土で260名程度だった感染確定者も、国境封鎖などの防疫措置のとられた3月15日時点で4838名(死亡12名)、ロックダウンに至った3月22日には18610名(死亡55名)と急速に増加し、昨日3月28日時点では厳しい外出制限措置にも関わらず、48582名(死亡325名)と一気に感染者数も死亡者数も跳ね上がっています。

 

この間、たったの1-2週間でした。

 

ドイツが早めの措置に踏み切っていなかったら、今頃どうなっていたことか。さらに大変なことになってしまっていたかもしれません。ロックダウンをしなかった場合の試算のようなことは、私のような医療現場の一駒として働いている人間にはできないのでわかりませんが、少なくともイタリアやフランスなどの他国で一気に感染が広がってしまった背景には、感染拡大の兆しが出始めた当初に人々の危機感が薄く、気づいたときには既に感染が蔓延し、時遅しという状態になってしまったことが考えられます。

あ、やばい!と思った時では遅いのです。

ウイルスに感染してから発症するまでには「潜伏期間」という、ウイルスが体の中にいるけれどなんの症状もないっていう期間があって、この間に自分がウイルスに感染してるとはつゆ知らず、外を元気に歩き回ってみんなと会っているうちに、他人にウイルスを撒き散らして多くの人にうつしてしまっている可能性があるのです。特に若い人でこの傾向があります。

 

*いつまでしなければいけないの?

いつまでかかるかというのは実際の感染の広がり方にもよるので、現時点ではなんとも言えませんが、ベルリンに関して言えば、ひとまずこれらの措置は4月19日までという目処で伝わってきていますが、延長の可能性ありと記載されています。中国は8週間の強硬な隔離政策により、やっと落ち着き始める兆しを見せているかどうか、(現場の意見ではまだという話も)というところです。

日本は3月1日から学校が休校となり、本格的に外出規制モードになってから4週間。自粛モード解禁の雰囲気になって間もなく感染者が増え始めました。

感染者が増加し始めている。ここからが勝負の時です。

 

*なぜロックダウンという経済破綻するような強硬手段にでなければならないのか?

 ひとまず皆さんにご理解いただきたいのは、

無症状や軽症の人が知らず知らずのうちに、他の人にウイルスを撒き散らしてしまっている可能性があるということです。感染源が特定できない感染が増えている、とメディアで言っているのは、つまり、自分がどこでどのようにウイルスをもらってきたかわからない。つまり、この間の飲み会だったかもしれないし、職場の隣の席の人だったかもしれない、けれど周りの人たちもみんな元気だったから、いつ病気の人と関わったかわからないのに、いつの間にか感染している、という状態です。

これでは誰がウイルスを持っていて持っていないのかわかりません。症状がないかあっても軽微なので、自分でも感染してるかどうかよくわかりません。

そのような隠れた感染者が、まぁ自分はしんどくないし平気かな、と出かけて家でおじいちゃんやおばあちゃんと会ったり、バスで高齢者と隣同士に座ったり、飲み会で不特定多数の人と居酒屋で時間を共にしたり、、とする中で、人にうつしてしまい倍々ゲームのように感染者が増えていく可能性があるのです。

 

都市のロックダウンは、もう誰が感染しているかわからなくなった!そしてこからウイルスをもらってきたかわからないような感染者が続々と増えている時の、「最終手段」なのです。

誰が感染者かわからないのなら、誰とも会わなければ、ひとまず感染はしないでしょう!ということです。

 

*感染拡大を食い止めるために、一番大事なこと

 これまでに述べたロックダウンの状況を聞いて、そんな不便な生活やっていられない!!と思うのであれば、今のうちから、外出は必要最低限の、どうしても必要なものだけに絞っていれば、このような最終手段は免れるかもしれません。

要するに、街を封鎖するかしないかということではなく、私たちのような無症状な若者が街に繰り出すのをやめて、家に留まることでウイルスを撒き散らす(拡散を媒介する)のを防ぐことに効果があるのです。

その会議・飲み会、オンラインにできませんか?その仕事、ホームオフィスにはできませんか?どうしても開催したい意義のあるイベント・式典など、1ヶ月後などに延期できませんか?

 3月の日本の皆さんの必死の頑張りで、いまだ日本は感染者が1500人に止められています。感染者が増え始めた今、自粛解禁モードになってヨーロッパやアメリカと同じ悲劇への道をたどるか、ここで踏みとどまるか、今からの2-3週間の皆さんの粘りにかかっています!!どうか、不要不急の外出自粛、心がけてください。

 

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*ベルリンの観光名所ブランデンブルク門(注:写真は昨年撮影したものであり、ロックダウン中の様子を表すものではありません。なにせ出歩けないので、、、

 

参考:https://www.bundesregierung.de/breg-de/themen/coronavirus/besprechung-von-bundeskanzlerin-merkel-mit-den-regierungschefinnen-und-regierungschefs-der-laender-zum-coronavirus-1733266

https://www.rki.de/DE/Content/InfAZ/N/Neuartiges_Coronavirus/Situationsberichte/Gesamt.html