ドイツの医療現場から

ドイツ在住の医師として、欧州や日本の今置かれている状況を、日本の皆さんにわかりやすく情報をお伝えすることを目的としています。遠く離れていても自分にできることを。

医療機関での感染が明暗を分ける!?ドイツの病院の感染対策から学べること

いよいよ東京を中心に医療現場ではコロナウイルスの感染患者増加に伴い病床が飽和し始め、通常医療に支障が出てきたと悲鳴をあげる声が徐々に上がってきました。今後感染拡大が予想される中、ドイツでは感染者数が、8万5千人もいるにも関わらず、死亡率は1.3%と低く留まっていることが、今着目されています。

 

ドイツが他の国と比べ死亡率が低い理由はなぜなのか」

 

私はその理由として次の3つのことを考えます。①感染患者の年齢層が若い、②高齢者の感染機会が少ない、③早期からの入念な準備と豊富な集中医療の受け入れ体制です。中でも、特にドイツでは徹底的に医療機関での感染を予防していることと医療崩壊を防ぐために早期から急ピッチで準備を進めており、万全の受け入れ態勢で臨んでいることが、イタリアのような医療崩壊に至るのを防ぎ、非常に功を奏していると考えています。

これ以上感染を広げないために、そして、犠牲者を増やさないために、ドイツの医療現場から学べることは何なのか、また一般の方が医療機関を受診するときに何に気をつけたらいいのか。それをお伝えしていきます。

 

 

*ドイツでなぜ死亡率が低いのか

*感染患者の多くは若年層

ドイツで検査陽性と報告された人のうちの多くは比較的若い年齢層が占めています。感染者を年齢別でみると、15-59歳が71%、60-79歳が19%、80歳以上の6.9%と、イタリアやスペインなどに比べ、比較的若い人に感染者が多く、重症化する人の割合が少ないことが、死亡率の低い一つの理由であると考えられます。

では、なぜ若者のあいだでは感染が広まったのに、重症化するリスクが高いと言われる高齢者に広がるのを避けることができているのでしょう?

*早期から徹底的に高齢者と若者の接触を避けている

その理由は、感染者数がまだ2-3千人の頃から徹底的な一般市民による外出自粛が行われており、日常生活において若者と高齢者が接する機会が激減していること。そして医療機関においても3月上旬の段階から待機手術は全て延期となり、普段のかかりつけ医への受診もまずは電話で相談することが推奨され、緊急性のない受診は極力しないようにすることで、早期から中年〜高齢者が感染するリスクの高い「病院」という場所に行く機会や「街中」を出歩く機会が限定されていることにあると思われます。

これが感染者の増加が若者の間にとどまり、入院が必要な重症患者が増えるのを抑えていることにつながっていると考えられます。

つまり、ポイントの1つ目はまず60歳以上の中年〜高齢者が、ウイルスに感染する機会が早期から徹底された外出自粛により減っているということです。

 

2つ目ポイントは...

*早期からの入念な準備と周到な受け入れ体制

各医療機関が急ピッチで患者の受け入れ準備を進めて
臨戦態勢で事態に臨んでいる。だから余裕があり、
医療崩壊せずに十分な医療を提供することができている、

ということです。

ではドイツでは実際にどんな準備や対策が行われているのでしょう。

 

1. 徹底した対人距離1.5mの確保 

まずは病院の受付を見てみましょう。受付前の床には1.5m間隔の赤い線が引かれており、人々が受付に対人間隔を保って並んで待っています。病院の入り口には職員が立っており、患者・職員・搬入等の方など含め、全ての人が体温チェックを受けます。その後手指消毒をしてから院内に入ります。

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ストップサインで止まり体温測定。受付前には1.5mごとの赤いラインが引かれておりそれに沿って並ぶ。受付には飛沫が直接かかるのを防ぐためのための透明な防護パネル。

院内に入った後は、待合室で待ちますが、そこでも対人距離を意識します。隣の人とは最低でも1.5m以上の間隔を空けて座ります。隣り合う椅子には張り紙がされてあり、座れないように工夫されています。待合室に人が多くなり対人距離を十分に取れないときには、患者さんはなんと屋外で呼ばれるまで待ちます。それだけ、対人距離1.5m以上は徹底されています。ですので、待合室はいつもガラガラ。数人しかいません。

 

2. 患者さんどうしが交わらない動線

その後診察を受けるときも、検査を受けるときも患者さんと関わる医療者はごく少数。できる限り接触を少なくします。発熱や呼吸器症状を訴えて救急にきた患者さんと、一般の持病の治療のために受診する患者さんは、「そもそも入り口すら別々」に設けられており、院内での動線や検査もきっちりと分かれており、感染が疑われる患者さんとそうでない患者さんが交わらないように厳密にコントロールされています。コロナウイルスの感染が疑われる患者は、「コロナ専用病棟」に送られてそこで隔離されます。検査や診察も全てそこで受けます。

3. 緊急性のない受診や入院は延期!

ドイツではかかりつけを受診する患者さんも、特に体調に変わりなければ屋外で処方箋だけをもらって、院内にすら入らず帰宅します。受診を避け、電話での状態の確認なども行います。

入院に関しても緊急性のない予定手術の患者さんなどは、全て延期となっています。

どうしても入院が必要な場合でも、待機手術を減らして空けた部屋を利用して、普段3人部屋を2人で利用したり、2人部屋を1人で利用したり、入院患者同士の接触も極力回避します。院内での人の出入りを減らすため、もちろんお見舞い、付き添い、全て禁止です。

患者さん同士の接触を避けることで、
院内での感染が起こりうる可能性を徹底的に排除する。

そして、通常業務を緊急性のあるものだけに絞って落とすことで、ドイツの病院はこの感染拡大に対応するスペースとマンパワーの余裕を生み出しているのです。 

これが医療崩壊を防ぐことにつながっています。

*閑散とした病院!?

実際に、感染者が8万5千人になった今、病院は忙しくなっているのか?医療崩壊間近なのか?と思われるかもしれませんが、実際は全く逆で、むしろ病院は閑散としており、いつもよりも余裕がある状態です。

普段は患者さんで溢れている病院の待合室にも、3-6人程度がポツリポツリと座っているだけ。入院の病棟もガラ空きです。

その背景には、既に3月上旬から全ての待機手術や必要不可欠でない定期受診は延期するよう国から通達が出ていることが挙げられます。ドイツの病院では、感染爆発に備え病棟を空けて、臨戦態勢で受け入れの準備をしているのです。

*実は危険な病院の待合室、改善策は?

では日本はどうでしょう。軽症の方々が受診を自粛することにより、普段より多少受診患者数は少なくなっていると聞きますが、それでもいまだに病院の待合室は診察を待つ人で溢れています。ドイツの待合室はガラガラに空いています。

病院は閑散としている、ここが日本とドイツの一番の違いです。

今までなんどもお伝えしていますが、このウイルスの怖いところは、症状がない・または軽い段階でもウイルスに知らぬうちに感染しており、他の人にうつしてしまう可能性があることです。コロナウイルスがいつもわかりやすい症状で顔を出してくれれば良いのですが、時にはお腹の症状やちょっとしただるさなど、わかりにくく潜んでいる場合もあります。そうした人たちはコロナウイルス専門外来ではなく普通の病院に受診してしまうことになります。そういった人がいつどこに紛れてるかわからないわけですから、自分は定期通院のつもりで待合室で待っているつもりでも、病院で過ごしている間、いつ誰から感染をもらってしまうかもわかりません。

しかし、病院内で患者や医療スタッフが感染して、病院がクラスター(集団感染の元)になってしまったら元も子もありません

ドイツの病院で行われている、徹底的な対人距離1.5mの確保、人混みを避ける対処、そして感染を疑われる人とその他の人が交わる機会を徹底的に避ける対応は、感染症受け入れ対策病院だけで対応するのが難しくなってきた今、開業医や一般の医療機関も含み全ての医療機関受診において今後日本にも必要とされてくると思います。

 

 

*患者さんとして受診する際に気をつけるべきことはなんでしょう?

*軽症の場合や定期受診はできるだけ医療機関の受診を避けよう

日本人たるもの、お医者さんに診てもらっていたら安心。そう思っていただけているのは有難いことですし、我々医療者もその期待に応えたいと毎日必死に頑張っています。

でも今は非常事態なのです。

感染が広まり始めた今となっては、もはや誰が感染しているかわからない、外を出歩きたくさんの人と接することでいつどこで感染をもらってきてもおかしくない状態なのです。そして、残念ながら病院は症状のある人の集まる、一番危険な場所なのです。

 ・緊急性のない受診は避ける
 ・どうしても受診するときは待合室での人混みを避ける
 ・コロナウイルスの感染を疑う場合は事前に電話で相談して直接の受診を避ける

定期受診をしている方は、少し長めに薬を出してもらえないか主治医の先生に相談してみましょう。また高齢の方が待合室などで長時間他人と共存して待つような事態は絶対に避け、家族の方に薬を取りに行ってもらったり、待合室で待つ場合も他の人との距離を1.5m以上あけることを意識しましょう。

*医療機関での感染拡大を防ぐ!コロナを疑うときはまず電話連絡を!

そして、何よりも重要なのは、自分がコロナウイルスかもしれない。もしくは他の症状や持病で通院したいけれど、咳などの症状もありコロナウイルス感染の合併などが疑われる場合。その場合は、できる限り直接の受診は避け、まずはかかりつけやホットラインでの電話で受診について相談しましょう。医師や担当者からどのように対処すべきか教えてもらえると思います。

 

感染が疑われる人がいつもと同じように受診をして他の患者さんたちや医療従事者と接することで、院内全体に感染が広がることは何としても防がなくてはなりません。

 

医療機関での感染を防ぐことは、医療崩壊を防ぐことに非常に重要です。
みなさんへもう一度お願いです。

 ・緊急性のない受診は避ける
 ・どうしても受診するときは待合室での人混みを避ける
 ・対人距離を1.5m必ず確保する
 ・コロナウイルスの感染を疑う場合は、直接受診する前に事前に電話で相談

 

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閑散とした待合室