ドイツの医療現場から

ドイツ在住の医師として、欧州や日本の今置かれている状況を、日本の皆さんにわかりやすく情報をお伝えすることを目的としています。遠く離れていても自分にできることを。

ドイツでなぜ「患者数が多い割に医療崩壊に至っていないのか」「死亡者数が少ないのか」

ドイツでなぜ「患者数が多い割に医療崩壊に至っていないのか」「死亡者数が少ないのか」について、テレビで取り上げていただきました。番組内時計9:10〜9:34の部分です。ドイツのコロナ対策から学べることとは?

 

youtu.be

 

 

*ドイツの徹底した外出制限、そして外出時の対人距離の確保

ドイツの人々の感染拡大に対する危機感と、徹底した感染対策これは日本も本当に見習うべきだと思います。例えば、これでもかってくらい徹底された対人距離1.5mの確保。スーパーや店のレジでは赤い線が引かれ、店に入るのも人数制限があり、あふれた人は店の外でこれまた1.5mの間隔をあけて並びます。それに加えて、徹底した外出自粛。普段は賑わう街中も今は空っぽです。

f:id:makiberlin:20200406171811j:plain

レジの前には1.5m-2mあけて赤い印がついており、間隔をあけて!と書かれている。これを目印に人々がレジの列に並ぶ。

*感染が疑わしい人と、感染すると重症化するハイリスクな人の接触を徹底的に避ける

ドイツでは圧倒的にPCR検査数が多く、その結果検査陽性となった人たちのうち、若者が多くを占めています。実に15-59歳までの陽性者が全体の71%を占めます。このことは分母を増加させ、一見死亡率が低くなっているように感じさせますが、そのことは物事の根本ではありません。

重要なのは、

検査で陽性になった若者がしっかりと自宅隔離をし、
感染を広める機会を絶っていること

そして、

早い段階から待機手術や定期通院が延期となっており、中年〜高齢の方もしっかりと外出自粛をしていること

です。このことにより、感染は広がり患者数は増えているものの、重症化しやすい層の方々に感染が広がることを防ぐことができており、結果死亡する人も少なくて済んでいるのです。結局重要なのは、外出制限を皆がすべての年齢層が徹底的に守っている、ということなのです。

*検査の有無に関わらず、自分が感染していたと仮定して人にうつさない努力を

検査数に関して私が言ったコメントはややななめ解釈されて番組内では使用されてしまっている気もしますが、「要するに、検査をたくさんすればいいわけではなく」て、ドイツでは結果的に多くの人が「検査で陽性になったこと」「外出しないという強い抑止力に繋がったこと」が功を奏したわけです。

検査で一度陽性と出てしまえば、否応なく自宅隔離しなければならないわけで、その人とコンタクトがあった人も含めて「全員」、つまり家族も職場の人も皆14日間の自宅隔離です。疑わしき人は徹底的に隔離されています。

結局ドイツでは検査で陽性でも軽症なら自宅待機なので、
検査してもしなくても取られる措置は変わりません。

だから日本でもいっぱい検査をしたほうがいいというわけではなく、検査するしないに関わらず、全ての人が、自分が陽性であったとしても他の人に迷惑をかけないように、他の人にうつしてしまわないように、外出自粛の行動をとるべき!ということなんです。

*病院に患者が押しかけない仕組み

ドイツで検査が多いのが良いことかのように一見報道されてしまっているので、訂正しますが、番組のコメンテーターの方もおっしゃってくださっていますが、ドイツの医療キャパシティーがあってこそ成し遂げられたことであり、今の日本において

人々が検査を求めて病院に殺到してしまったのでは、そこで感染の可能性の高い人と濃厚に接触してしまうことになり感染のリスクがさらに高まるばかりか、医療現場のキャパシティーを圧迫してしまい、逆効果です。

見習うべきところは、そのあと。検査をしに病院に押しかけるのではなく、自分がどういう行動を取るべきかということです。ドイツでは、自分がコロナウイルスに感染したかも!?と思った時に、どこに連絡して、どう対処したらいいかがしっかりと統一されて一般の方々に明示されています。まず、かかりつけ医の先生に電話で相談する、ないしは116117というコールセンターに連絡すると決まっています。

ポイントはいずれも電話であるということです。

病院の待合室で人々がごった返している状況は、いつどこでどのようにウイルスをもらってもおかしくない状態です。ドイツの医療制度ではまず、できる限り電話にて応対するように人々に呼びかけたことで、症状がある人が病院に直接来てしまうことを防いでいます。このことが医療機関での感染拡大を防ぐことにつながっています。

f:id:makiberlin:20200406121614p:plain

ドイツの病院では待合室も閑散としています。病院でも3密の状況は絶対に避けるべきなのです。

 

*臨戦態勢で準備を急ピッチで進めるドイツの医療現場

加えてドイツの医療機関では、感染を疑う患者とそれ以外の患者が、病院という場所で濃厚接触しないように、病院の入り口を分ける、専用病棟をもうける、患者の動線を分けるなどの工夫が徹底的になされています。また、待機手術を3月上旬から減らすことで病床に余裕を持たせ、いつ患者が増えても受け入れられる万全な態勢を整えています。これらの医療機関の対策はまた別のブログ記事で詳しく紹介しようと思います。

 

*なぜドイツでは患者数が多い割に医療崩壊に至っていないのか(まとめ)

要するに、感染している人の割合が多い若い人たちが徹底的に外出自粛を行った + 緊急性のない通院/入院は全て延期になっている(=中年〜高齢の方も出歩かない)ことの両側面で、より重症化しやすい層の人たちへの感染拡大が抑制されていることが、一気に入院患者や集中医療を必要とする患者が増えることを防いでおり、結果医療機関のキャパシティーを残していることにつながっているのです。

そして医療のキャパシティー自体も、待機手術等を減らすことで通常業務を減らし、いつなんどき患者が増えても対応できるように万全の準備がここ2−3週間の間に急ピッチで進められました。

*私たちにできること

ドイツの感染者の例からわかることは、日本では検査数が少ないので顕在化していないだけで、実は若者も知らず知らずのうちに多く感染している可能性があるということです。これが各国で、外出自粛が叫ばれている理由です。

高齢化社会の日本。もし感染が広く高齢者に広がったら間違いなく重症化する人も増え、医療機関への受診者や入院患者は増え、医療崩壊に至ります。

 

私たちにできること、
それは結局外出自粛して感染を広げないようにすること。
そしてどうしても外出せざるをえない時も対人距離を1.5-2m以上保つ
他人と接触する機会を極限にまで減らす
さらに、基本のき「手洗いうがい」などの感染予防。


それも今の日本のようにやったりやらなかったり、やる人がいたりやらない人がいたりの中途半端ではなく、ドイツを見習って徹底的に行うこと、
これが一番重要なことです!

 

f:id:makiberlin:20200329163505p:plain