ドイツの医療現場から

ドイツ在住の医師として、欧州や日本の今置かれている状況を、日本の皆さんにわかりやすく情報をお伝えすることを目的としています。遠く離れていても自分にできることを。

オーバーシュート(感染者の爆発増加)の足音 - 日本人は危機感がなさすぎる!?

新型コロナウイルス(COVID-19)の世界中での急速な感染拡大に伴い、既に医療崩壊に至ったイタリアやスペイン、アメリカなどを中心に爆発的に犠牲者が増えており、連日2500〜3000人以上の方が世界中で亡くなっています。昨日1日だけでイタリアではなんと971名もの方が命を落としています。

遠い海の向こうの世界の話だと思っていませんか?
日本は医療が進んでいるから医療崩壊はしないと思っていませんか?

残念ながら、今皆さんが映画のように画面を通じて見ている世界の惨状は、皆さんが現状を変えようとしなければ、数週間後の日本である可能性が十分にあると思います。(個人的には、まだ街中で集う若者や、他人事ととして捉えている人たちが多い今のままの状態が続けば、医療崩壊に至る感染拡大はほぼ確実に避けられない未来だと思っています。)

 

連日のメディアでは、”オーバーシュート”が起こると"医療崩壊は避けられない"。そうなってしまうと、普段なら助けられる命も助けられなくなる。と報道されています。

オーバーシュートってなんのことなのか?なんでそれが起こると医療崩壊になるのか?どうして日本の先進医療をもってしても患者を救えなくなるのか。
これをわかりやすく解説します。

 

 

*オーバーシュート(感染者の爆発的増加)って何?

3月26日辺りから国内で連日100名もの新規確定患者が報告されはじめています。

2週間前のアメリカはどうだったでしょう。WHOの報告をみると3月16日頃までは200-300人程度の新規陽性確定者数だったのが、その2-3日後には3000人、1週間後には10000人の患者が出ています。最新の29日の報告では約2万人の陽性報告があり、1日で425名もの方が亡くなっています。このような状態が急速な感染者の増加=オーバーシュートです。

その間、たったの2週間なんです。

今、国内で連日100名の新規患者さんが出ています。最新の29日の報告では既に、194名です。2週間後にどんな状態が予測されるかこれでわかりますね?医療者の皆がどんなにその事態を恐れているか想像できますね?

私たちはこのような事態になるのを絶対に避けなければいけません。

むしろ患者さんが増えている以上、必ずさらなる感染増加は起こります。でも、なんとしてでも医療機関が対応できるレベルに抑えなければなりません。

でもそれをできるのは私たち医療者ではなく、一般のみなさんの一人一人の行動なのです。とにかく不要な外出をしない!人と集まらない!

*オーバーシュートはどうして起こるのか

実際に東京で感染した方の報告をみると10代〜70代まで幅広い年代層に及びます。もちろん空港で検査されて検疫で陽性となる方もいらっしゃいますが、数としては限られていて、ほとんどは街中で感染した人たちです。

ということは、仕事に行き、友達と食事し、帰りにコンビニに寄るなど、普段通りの生活を送るそこのあなたもウイルスの危機に直面しているのです。その中でも、散々口うるさく言われているとは思いますが、「3密空間」と言われる、

  • 換気の悪い密閉空間
  • 多数が集まる密集場所
  • 間近で会話や発声をする密接場面

で、特に感染のリスクが高いと言われています。

電車やレストランで隣の席の人との間隔は1.5m以上離れていますか?みんな大声で会話していないですか?近くに咳き込んでいる人はいないですか?人が密集する場所ではウイルスが飛沫という状態になって空中にふわふわ浮遊している状態になっています。非常に危険です。

症状があるのであれば外出しない!これ、基本中の基本です。

そして、

症状がなくても無駄に外出をしてウイルスを吸い込みにいく必要ないのではないですか?その外出どうしてもどうしても必要か、今一度考え直してください。

世界中で健康でなんの病気もなかった若者の死亡報告も徐々に出始めています。高齢者に比べると少なくはありますが、それでも誰が重症化するかなんて、誰にもわからないのです。なにせ未知のウイルスなんですから。

自分が軽症で済んだとしても、そのウイルスを他人にうつし、その人が亡くなってしまう可能性だってあるのです。関係ない人なんて誰一人いないんです。

 

*どうしてオーバーシュートが起こると医療崩壊になるのか

新型コロナウイルスは感染した人の80%は軽い風邪くらいで済みます。しかし15%は入院が必要とされる状態となり、5%は人工呼吸器などの集中治療が必要な状況となります。日本の現時点での累計患者数は1693例です。今は1000人レベルの感染だからなんとかなっているものの、5%が重症化という頻度は、とても厄介です。

なぜなら、このウイルスが1万人に感染したら500人の重症患者、10万人に感染したら1万5000人が入院して、5000人が人工呼吸器や集中治療を必要とする状態になります。

いくら日本が先進国で医療水準が高くたって、こんなにもたくさんの人を一気に救えるほど、キャパシティーは大きくありません。これが医療崩壊です。日本のICU(集中治療)設備は人口10万人あたり3-4床しかないと聞きます。感染対策のなされた病床は全国にたった2637床です。感染者が100名程度の今の段階ですら、既にほぼ半数の感染症病棟が埋まっています。500人、1000人と増えて行ったら、どうなってしまうのでしょう。

感染者が爆発的に増えれば簡単に医療は崩壊して、普段なら助けられたであろう命も助けられない、命の取捨選択が迫られるイタリアやアメリカのような惨状が日本でも本当に起こり得るのです。

 

*なぜCOVID-19はそんなに危ないのか

インフルエンザにかかったことがある人はわかると思いますが、高熱が出て、喉も痛くて、節々が痛くて全身がしんどいですね。とても無理を推して仕事に行きたいとは思えませんね。でも新型コロナウイルスは違うのです。意外にかかっても多くの人は、「ん?ちょっと風邪気味かな?」くらいで済んでしまうのです。なんなら、下痢や腹痛などのお腹の症状しかない人や、話題の味覚・嗅覚の症状など、一見コロナウイルスだとわからない顔をして近づいてくることもあります。だから意外と普段通り過ごせてしまうのです。

じゃぁ、たいしたことないじゃないか。

と思うあなたがいたとしたら、それは本当に危険な考え方です。

 

その①に、コロナウイルスは遅れて重症化してきます。はじめは風邪のような軽い症状で始まり、発症後5-7日ほどで急速に呼吸状態が悪化することがあります。実際に診療に当たる先生方は、増悪した場合、その経過はかなり急速で、先ほどまで普通に話せていた人たちが、数時間のうちに緊急で人工呼吸器が必要な状態になるとおっしゃっています。こうなると誰しも手遅れになる可能性があります。

その②に、あなたが感染を広げる原因となってしまう可能性があります。あなた自身が幸いにして軽症で済んだとしても、そのあなたが感染していた間に接触のあった方々はどうでしょう。もちろん家族や友人たち、その他にも偶然レストランや電車、イベントなどで一緒に居合わせた人たちもです。あなたが関わったその人たちがのちに発症し、命の危機に瀕するかもしれないのです。

油断している隙を狙って悪さをしてくる
そして一見わかりにくく潜んでいるから気づかぬうちに感染が広がる
これがこのウイルスの怖いところです。

皆さん、わかってください。外出自粛は自分のためだけではなく、あなたの両親・祖父母・友人・同僚、大切な多くの人たちの命を守るためであるということを。そのためには、一人一人が感染を広げるリスクを極限まで下げなければいけません。

 

*海外の同僚たちが警鐘を鳴らしています

一足先に、イタリアやスペイン、フランス、そしてアメリカの一部で医療崩壊が起きています。人工呼吸器や感染防御の物資が不足し、医療者も倒れていく自体となっています。ひとたびコロナウイルスの感染が増悪したら、治るまで週単位の治療が必要となります。ベッドが満床になって、人工呼吸器も全部使われているのに、医療スタッフも不眠不休で働いているのに、それでも次々に患者さんが運ばれてきたらどうなるでしょう。そのような場合、その場にある医療資源で全ての人を救うことが出来なくなってしまいます。トリアージといって、より助かる可能性の高い患者さんを優先し、状況の悪い患者さんは諦めざるをえなくなってしまいます。命の選択が行われることになってしまうのです。そんな事態誰が耐え得るでしょうか。

また、コロナウイルスに感染しなかったとしても、普通に持病が悪化したり、心筋梗塞や脳梗塞などの急病になったり、交通事故にあって手術が必要となったりした場合、あふれ返るコロナウイルスの患者で混乱の最中の病院に運ばれて、果たして普段通りの適切に治療が受けられるでしょうか?

 

イタリアでの感染爆発を受けて、中国だけではなかったのかと多くの国が外出自粛や国境封鎖に乗り出しました。しかし一般の人々はどうでしょう。国が外出自粛要請を出していても、フランスやニューヨークも2週間前はのほほんとしたもので、誰もそんな深刻に受け止めていなかったそうです。それが、今となって医療の現場で働く仲間たちは多くの人が病院に詰めかけ、目の前で次々に人々が亡くなっていく現場に悲鳴をあげています。こうなってから焦り始めるのでは遅いのです。

 

*今私たちにできること

これだけ世界の国々が警鐘を鳴らしているのに、
日本は行動を変えなくていいのでしょうか?このまま多くの方々の命が犠牲になるのを見殺しにしてもいいのでしょうか?まだオーバーシュートに至っていない今ならまだ引き返せる可能性があります。

感染者が増え始めた今、自粛解禁モードとなってヨーロッパやアメリカと同じ悲劇の道をたどるか、ここで踏みとどまるかの瀬戸際に私たちはいます。

私たちに今できること。それは、

  • 不要不急の外出はしない
    (外出がやむをえない時は人との距離は1.5m以上保って!)
  • 3密空間には”絶対に”行かない
  • 手洗い・うがいなどの予防を徹底的に行う

多くの方々の命を救うために、そして困難に直面しなければならない医療現場の同僚たちを救うために。皆様、どうかどうか宜しくお願いします。

 

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参考:WHO 2019nCoV infections daily update https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/situation-reports/

尊敬する忽那先生のわかりやすいまとめ

https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20200322-00169120/

厚生労働省発表の資料(患者の数など)

https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/houdou_list_202003.html